人気登山ルート一部消失 入山自粛呼び掛け 北岳バットレス 大規模な岩盤崩落 クライマーをヘリで救助

 ロッククライミングの名所として知られる南アルプス北岳の山頂東側のバットレス(大岩壁)で男性が落石を受けて死亡した事故は、バットレス第四尾根の通称「枯木(かれき)のテラス」付近で起きた大規模な岩盤崩落が影響していることが13日、山岳関係者への取材で分かった。関係者によると、落石規模は縦30メートル、横40メートル、深さは少なくとも20メートルに上るといい、最も人気のある第四尾根の登攀(はん)ルートは一部消失した。同日にはクライマー3人が身動きできず、ヘリコプターで救助された。南アルプス市などは、バットレスへの入山自粛を呼び掛けている。

 死亡事故は、10日午後9時半ごろ、バットレスでテントを張ってビバークしていた岐阜県の会社員男性(42)に落石が直撃、死亡した。南アルプスで山岳救助活動に取り組む大久保基金の会などによると、大規模な岩盤崩落は標高約3000メートル付近のバットレス枯木のテラス近くで確認。崩落した岩盤は少なくとも2万4000立方メートル。崩れた岩盤は枯木のテラスから、第四尾根の下に位置する標高約2500メートル付近の大樺沢ルートの左俣に達していた。

 13日朝には、第四尾根でクライミングをしていた県外の男性3人が枯木のテラス付近で立ち往生。南アルプス市消防本部へ通報があり、要請を受けた県の防災ヘリ「あかふじ」が救助した。県消防防災課によると、3人にけがはなかった。崩落の影響で枯木のテラス付近より上に登攀できなかったという。

 基金の会の清水准一会長は「長年風雨にさらされたことによる自然崩壊の可能性が高い」とみている。ルートの一部が消失して危険なため、同会は岩盤崩落を知らせるチラシを作成、各山小屋などを通じてクライマーに注意を呼び掛けている。

 バットレスのほか、登山道の破損が確認されている大樺沢ルートの左俣付近でも小規模な落石がある。南アルプス市などは、大樺沢ルートの左俣登山道は避け、右俣ルートを利用するよう呼び掛けている。南アルプス署も今後、広河原などに看板を設置し、周知していく。

 日本山岳協会は「今後も岩盤崩落の可能性があり危険。沈静化には時間がかかる」として、協会のホームページを通じて各地の山岳団体などに注意を促す方針。

 南アルプスでの大規模な岩盤崩落は1981年、今回の現場から数十メートル下の第四尾根で発生。2004年には間ノ岳東斜面でも大規模な崩壊が確認されている。

 【ズーム】 北岳バットレス 北岳山頂の東面にある大岩壁で、6つの大きな尾根、その間のガリーと呼ばれる小さな岩の谷などからなり、高低差は約600メートル。国内有数のロッククライミングの名所として知られ、中でも第四尾根のクライミングは人気のルート。

 (2010年10月14日付 山梨日日新聞)

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