夏山幕開け大幅遅れ 南ア林道崩落、復旧は7月下旬

 年間約四十万人が訪れる南アルプスの玄関口、広河原とふもとを結ぶ南アルプス林道の冬期閉鎖の解除が大幅に遅れることになり、登山愛好家や地元の観光関係者をがっかりさせている。四月末にあった斜面の崩落で復旧に時間がかかるため、通行止めの解除は早くても例年より一カ月以上遅い七月下旬にずれ込む見通し。夏山シーズン幕開けを告げる六月二十八日の開山祭は広河原から芦安地区に会場を変更して開くが、山小屋は物資を荷上げできず、実質的な山開きは開通後となる。観光関係者からは「南アルプス市が誕生した記念の年に南アルプスへの観光客を受け入れられないなんて」と嘆き節が聞こえてくる。

 崩落があったのは四月二十八日。夜叉神峠登山口のゲートから四・二キロ地点の「第一ワシの巣隧道」前で斜面の岩盤が大規模に崩落した。さらに崩れる恐れがあり、夜叉神-広河原間の一四・五キロは歩行者も通行止めとなっている。

 県峡中地域振興局南アルプス林道課によると、近くアンカーの打ち込みなどの復旧工事を始めるが、開通までには二カ月程度かかる見通し。「開通は安全が確保できてから。復旧に全力を挙げたい」と説明している。

 開通の遅れは各方面に波紋を広げている。毎年、冬期閉鎖(十一月上旬-六月上旬)の解除と同時に食料品や燃料を広河原に運んで山開きに備える山小屋も、今年は荷上げの見通しが立っていない。北岳で「肩の小屋」を営む森本茂さん(56)は「自然のことなので仕方ないが、できることなら早めに開通させてほしい」と願う。

 地元の夜叉神観光協会長の名取昭三さん(50)は「南アルプス市になって初めての年なのに幸先が悪い。林道に入らないと南アルプスを見られないのでお客さんも来ない。ただでさえ観光が厳しい時なのに…」と芦安地区の観光産業への影響を心配する。
 南アルプス市商工観光課には、林道や市営バスの運行に関する問い合わせが増えている。市は登山客や地元の関係者が山開きを祝う開山祭について、今年は開通の遅れが確実になっているため会場をふもとの芦安地区に移すことを決めた。広河原と、甲斐駒ケ岳などへの拠点になる北沢峠を結ぶ市営バス(旧芦安村営バス)は例年、六月十五日に運行を始めているが、今年は「いつ運行開始できるか協議中」(同課)という。

 広河原へのルートは同林道のほかに、七月一日開通予定の県道南アルプス線(広河原-早川町)と六月十五日開通予定の長野県長谷村(長谷村-北沢峠)からの林道がある。しかし南アルプス林道が最も一般的なルートとあって、通れなければ登山客が大きく減るのは確実という。

 一方で同林道は整備から四十年が経過し、老朽化が進んでいる。関係者の間には「あてにならない林道では登山者の足も離れる」と、大規模改修の必要性を訴える声も出始めている。

 県山岳連盟会長の内藤順造さん(61)=南嶺会=は「キタダケソウが咲き、残雪が美しい七月上旬までの時期に行けないのは残念。(通行止めは)自然が相手なので仕方ないが、林道も整備から四十年以上たっているのでこのあたりで思い切った改修も必要ではないか」と話している。

【南アルプス林道とは】
 南アルプス市芦安安通(旧芦安村安通)から白根三山登山口の広河原を経て北沢峠までを結ぶ総延長34.1キロの県営林道。芦安-広河原間(24.1キロ)が開通した1962年以来、南アルプスへのアクセス道として登山者や観光客が利用。広河原-北沢峠間(10.0キロ)は一般車両の乗り入れが禁止され、公営バスが運行されている。

【写真】通行止めを知らせる夜叉神峠ゲートの電光掲示板=南アルプス市

(2003年5月18日付 山梨日日新聞)

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