南ア市立美術館でコレクション展 木版画の変遷、技術紹介

 南アルプス市立美術館は、展覧会「木版画の玉手箱-浮世絵から現代の木版画まで」を開いている。美術館のコレクションを中心に、色を刷り重ねる技を見ることができる「順序摺」や、明治期に商標や絵草子の印刷に用いられた版木なども展示、日本の木版画の変遷や技術を紹介している。
 江戸時代、絵師が下絵を描き、彫師が版木を彫り、摺師が和紙に色を重ねて刷る分業体制をとったことで、大量制作が可能になり、庶民も気軽に浮世絵を購入できるようになった。技術は商標やチラシ、教材などにも用いられ、人々の生活に根ざした「印刷文化」になった。
 明治時代、西洋から石版画が導入され、木版画の技術は衰退の危機を迎えるが、大正から昭和前期にかけて版画家たちが生み出したのが「新版画」。その一方で、木版画はすべての行程を自分で行う創作版画へと世界を広げ、伝統の技に作家独自の技術を加え進化していった。
 今展では、歌川国芳の「加賀の国千代女」、歌川広重の「江戸百景 佃島住吉之景」、月岡芳年の「川中島大合戦」などの浮世絵、新版画をけん引した川瀬巴水、吉田博の風景画、南アルプス市出身の名取春仙の役者絵、笠松紫浪の自画自刻自摺の創作版画などが並ぶ。
 春仙の「三代目坂東寿三郎 水引清五郎」は、同じ版木を用いながら、色やぼかし方などに変更が見られる「異版」も展示。「四代目中村富十郎 羽子のかむろ」は、「順序摺」を紹介している。
 甲府市出身の木版画家萩原英雄さんの「三十六富士」などのシリーズ、上野原市出身の河内成幸さんの代表的なモチーフであるニワトリと、都庁、葛飾北斎の波を組み合わせた作品も並ぶ。萩原さんの「拾遺富士 黒雲沸く」は、表裏両面から見えるように展示していて、浮世絵のように、透かしてみたり、裏に染み出た色を楽しんだりして鑑賞することが可能となっている。
 11月16日まで。問い合わせは同美術館、電話055(282)6600。

月別
年別