世界の山々歩き、描き半世紀 韮崎にアトリエ山岳画家・武井清さん

 南アルプスが一望できる韮崎市上ノ山に、山岳画家武井清さん(79)=日本山岳画協会代表幹事=のアトリエがある。アルピニストでもある武井さんは半世紀にわたって世界の山々を歩き、大地の隆起と風雪がつくり出した造形をキャンバスに収めてきた。「絵も山登りも好きな自分にとっては天職だ」。作品は千点以上になるが、傘寿(80歳)を前にしても意欲に衰えはない。

 武井さんはピッケルにアイゼンの完全装備で冬山に入り、頂上に着くとリュックサックからフェルトペンとスケッチブックを取り出し、そこから見える辺りの山の表情をスケッチする。吹雪で何日も足止めを食らい、下山を余儀なくされることも多い。

 「凍傷になりかけた指でも、不思議と描ける。苦しい登山であればあるほど、その思いが筆を進ませてくれる」と、事もなげに言う。

 アトリエに帰ると、キャンバスに色を乗せる。油彩絵の具を何重にも重ね、ナイフで削れば下地の色との対比で、荒々しい岩肌と滑らかな雪渓のコントラストが立体的に浮かび上がる。

 武井さんはサラリーマンをしながら絵画を勉強。約40年前、山岳画家として独立した。南北アルプスはほとんどの山を踏破。海外にも行き、アイガー(スイス)やヒマラヤ山脈にも登った。特に思い入れがあるのは、北穂高岳(長野)。「何遍行っても多彩な表情を見せてくれる。空気や天気、時間はもちろん、自分の体調によっても山の表情がまったく違う」

 約20年前、白州町(当時)にアトリエを造り、山梨を制作の拠点にした。約12年前に韮崎に移った。最近は体調を崩したため、アトリエでの創作活動が中心。これまでのスケッチを元にキャンバスに筆とナイフを振るう。

 山岳画協会に在籍する会員は約20人。武井さんは「山岳写真と比べると裾野が狭く、若手が少ない。一人でも多くの人に山岳画の魅力を知ってもらうため、死ぬまで描き続けたい」と意気込んでいる。

【写真】アトリエで山岳画を創作する武井清さん=韮崎市上ノ山

(2010年12月17日付 山梨日日新聞)

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