2009.9.14 News / 登山 / 人物・団体 /

新鋭登山家 山梨から世界へ 豊富な訓練場所、ガイドで生計可能 拠点構える移住者も

 山梨県内を活動拠点に、ヒマラヤ、カラコルム山脈などの世界の高峰に挑む若手クライマーが増えている。「登山界のアカデミー賞」といわれ、優れた山岳登攀(とうはん)に贈られる「ピオレ・ドール(金のピッケル)」賞を今年、日本人で初めて受賞した5人のうち4人が山梨とかかわりが深い登山家だ。富士山や南アルプスなど日本を代表する山に囲まれた県内は、クライミング訓練の適地が多く、山岳ガイドなど山の仕事で生計が立てられることから、登山家にとって魅力的な場所で、県外から移住するケースが少なくない。県山岳連盟関係者は、新たな快挙の知らせを心待ちにしている。

 約1年前、インド・ヒマラヤのカメット峰(7756メートル)南東壁を初めて登攀、ピオレ・ドールに輝いた平出和也さん(30)と谷口けいさん(37)。平出さんは山梨との県境にある長野県富士見町の出身で、本格的に登山を始めたのは大学2年の時。「いつも実家から見えていた」という甲斐駒ケ岳に単独登頂し、山に魅せられた。ICI石井スポーツ(東京)に所属する今は、甲斐駒ケ岳や北岳に登る一方、1年の約半分を海外で過ごし、各地の難壁に挑戦している。

 女性初の受賞者となった谷口さんは、甲府市のアウトドア用品店エルクが企画する海外ツアーにツアーリーダーとして参加するなど、山梨と縁がある。現在は平出さんとともに、ネパールと中国チベット自治区にまたがるガウリサンカール(7134メートル)東壁への人類初登攀を目指し準備を進めているという。

 「山梨は一年を通じてトレーニングできる山や岩場がある」と話すのは、佐藤裕介さん(29)=甲府市西高橋町。昨年、インド・ヒマラヤのカランカ峰(6931メートル)北壁の初登攀に成功し、天野和明さん(32)=甲州市出身=らとピオレ・ドールを受けた。少人数かつ最低限の装備で挑む、冒険色が強い「アルパインスタイル」が高い評価を受け、今年に入ってからもパキスタン・カラコルムのスパンティーク壁登攀に成功した。佐藤さんは夏は北杜・瑞牆山、冬は甲斐駒ケ岳や北岳などで訓練を続けている。

 ペルー・アンデスのワンドイ南峰(6160メートル)など海外登攀に数多く成功している兵庫県出身の花谷泰広さん(33)は、県内移住派の一人。大学卒業後、夏山シーズン中に富士山で登山ガイドをして過ごしたことをきっかけに、2年前に北杜市へ引っ越した。現在は八ケ岳などでガイドを務め、「山の仕事ができるし、日常的に山でトレーニングできることは幸せ」と、登山者にとって最高の環境であることを強調する。

 県山岳連盟前理事長で、日本山岳協会国際部長の青木茂さん(54)は「山梨の素晴らしい自然環境が世界をリードする登山家を生み出している。今後も若手クライマーの活動を支援、スペシャリストが一人でも多く誕生することを期待したい」と話している。

(2009年9月14日付 山梨日日新聞)

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