2016.8.13 News / 芦安山岳館 /

【連載】「甲斐駒開山200年 信仰と暮らし」<4>

神楽で恩恵に感謝 豊かな水米どころ育む

甲斐駒ケ岳の麓にある北杜市の横手、竹宇両駒ケ岳神社では毎年4月の春季例大祭で、駒ケ嶽講が栄えた時代から続く神楽が奉納されている。太鼓と笛のにぎやかなおはやしは登山道まで響き渡り、厳かな舞に参拝者は引きつけられる。

山頂に祭られている国造りや農業の神「大己貴命」「大国主命」に日ごろの感謝を伝え、家内安全や五穀豊穣を祈る。「神をもてなし、喜んでもらうため」(両神社)の伝統芸能で、舞と演奏は地元住民が受け継いできた。

習わし引き継ぐ

駒ケ嶽講が栄えた時代から受け継がれている神楽=北杜市白州町横手(2015年4月撮影)

駒ケ嶽講が栄えた時代から受け継がれている神楽=北杜市白州町横手(2015年4月撮影)

「足の不自由な人が神楽の舞い手におひねりを渡してわら草履をもらい、家族らが山頂に運ぶと治癒する」。横手駒ケ岳神社(同市白州町横手)には、こんな言い伝えがある。神社の本殿前には、けがなどが完治した人が奉納した金属製のわら草履が置かれている。

言い伝えに基づき、同神社では舞い手のわら草履を山頂に奉納するのが習わしとなっていたが、駒ケ嶽講の流れをくむ信仰者の減少などで約30年前に途絶えた。しかし「高齢で頂上を参拝できない人の願いを届けたい」(同神社)と、約15年前に再開。毎年7月、合格祈願や無病息災なども含めた願いを記した書をわら草履に編み込み、神職や信仰者らが山頂に奉納している。

同神社の今橋武宮司(64)は「甲斐駒ケ岳をあがめる参拝者の思いで長く守られてきた神社。これからも気持ちに寄り添い続ける存在でありたい」と話す。

「幻の米」を栽培

田植えをするコメ農家。甲斐駒ケ岳が育む豊富な水は県内有数の米どころを生んだ=北杜市武川町内

田植えをするコメ農家。甲斐駒ケ岳が育む豊富な水は県内有数の米どころを生んだ=北杜市武川町内

習わしには、麓にもたらす恩恵への感謝も込められている。「名水百選」に選ばれた花こう岩に洗われた豊富な雪解け水は、尾白川や大武川などに流れ込んで県内有数の米どころ、産業を育んだ。

同市農政課によると、白州、武川の両地区には計約470万平方メートルの水田があり、農家はかんがい用水路を通じて水を引き、コメを育てる。高品質なコメと、それを使った日本酒や和菓子などで、両地区の名は県内外に広く知られている。

同市武川町山高の溝口秀元さん(70)は、栽培の難しさから「幻の米」との異名がある「農林48号」にこだわってきた。溝口さんら農家の努力でそのブランド名「武川米」は全国区になった。溝口さんは「コメ作りに良い水は欠かせない。当たり前のように引ける環境は本当にありがたい」と話す。

修験者の信仰心を集め、登山者に愛されてきた甲斐駒ケ岳。生み出す水は麓を潤し続ける。名峰は開山から200年がたった今も変わらずにそびえている。 (おわり)

2016年8月13日付 山梨日日新聞掲載

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