芦安山岳館 貼り絵作家・ちぎらまりこさん企画展 豊かな山に宿る息づかい

「見た人それぞれがなにかを感じ取ってくれたらうれしい」と話す=南アルプス市芦安山岳館

 貼り絵作家ちぎらまりこさん(38)=前橋市=の企画展「ただ、ここにある」(南アルプス市、山梨日日新聞社、山梨放送主催)が、南アルプス市芦安芦倉の市芦安山岳館で開かれている。和紙や包装紙などを貼り合わせた作品34点を展示。南アルプスの自然と人の営み、動植物の息づかいを伝えている。

 ちぎらさんは尾瀬国立公園のある群馬県片品村の出身。手すき紙や和紙、外国の包装紙などを手やハサミで切り、風合いを生かした貼り絵を国内外で発表している。創作のルーツは、日常的にカモシカやニホンジカなどを目にする自然の中で育った経験だ。作品に明確な意味を持たせず、「そこに存在するだけで癒やされる山のように、見る人それぞれが“なにか”を感じ取り、持ち帰ることができる作品をつくりたい」と話す。
 会場入り口には北岳を描き、会場へ一歩入ると、メイン作品「ただ、ここにある」が一面に広がる。幅4・5メートル、高さ2メートルの板に、カモシカやライチョウを描き、金色や青色が映える紙を重ね水や風など自然物も表現。「森の中に足を踏み入れたよう」な構成にした。
 同館での展示に合わせ、群馬県の谷川岳で見た景色や、実家から見える山の風景も制作。日々の手仕事や四季の移ろいを描いた12カ月のカレンダーの原画展示や、アトリエを再現したコーナーもある。今後、紅葉シーズンなどに合わせ、展示作品に手を加える予定だという。
 市担当者は「子どもから大人まで楽しめる作品。多くの人に南アルプスの山の豊かな表情を感じ、自然との共生に関心を持ってもらいたい」と話している。
 企画展は南アルプスユネスコエコパークと同館の認知度向上などを目的に開催。来年3月10日まで。午前9時~午後5時。毎週水曜日、年末年始休館(9月2日まで無休)。大人(中学生以上)500円、子ども(小学生)250円。問い合わせは同館、電話055(288)2125。

自然意識し作品構想 ■ 動植物に「命」吹き込む
 かばんの中に潜ませたのは、紙袋や和紙、古地図、外国の包装紙など質感や風合いの異なる多様な素材。日焼けした一枚の紙をハサミや指先で切り、のりを付け、ピンセットでキャンバスにのせていく。「手描きの線が入ると、作品に人の手のあとを加えられる」とちぎらさん。アクリル絵の具でウサギやサルに色を乗せ、作品が仕上がると会場から拍手が上がった。6月15日、企画展のオープニングセレモニーで動植物に命の気配を吹き込んで見せた。
 今年1月に初めて会場の下見に訪れ、ライチョウやキタダケソウなど南アルプスの希少な動物や植生を知った。北岳のふもとの山道や芦安地区の人里の様子は、「実家のある里山の雰囲気と重なった」という。
 会場を取り巻く自然を意識しながら作品を構想。「山は私たちに何の意味を押しつけることもなく、ただ存在して癒やしをくれる。自然や動植物、暮らしなど私たちを取り巻くものに宿る息づかいを、見る人それぞれが感じ取ってくれたらいい」と話す。
 制作にあたり、下絵などは描かず、小さなパーツを貼り合わせ、組み合わせながら作品を仕上げていく。ちぎることでけば立った和紙で動物の毛並みを、ハサミで切った紙のシャープな線で輪郭を表現する。紙の重なりや所々のせた絵の具が作品に影と奥行きを与える。メイン作品の「ただ、ここにある」のような大作は「これまでに作ったことがなかった」といい、同館で仕上げた。
 7月26日にはうちわに貼り絵を描くワークショップも開催。参加者45人が紙をハサミで切ったり指でちぎったりしながら、自由な表現を楽しんだ。各地でワークショップを開くと、参加者から「頭の中にあるものを形にするとすっきりする」との声が寄せられるという。「自分のためだけに時間を使い、生活の中で使えるものを残す。そんな作品づくりを楽しんでもらえたらいい」と貼り絵の魅力も伝えている。

「ただ、ここにある」

ちぎらまりこさんのアトリエを再現したスペース

ちぎらまりこさんが手掛けた挿絵

「しかの群れ」と「標本づくり」(左)

(山梨日日新聞 2025年8月11日掲載)

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