2015.6.12 News / 芦安山岳館 /

【連載】「エコパーク登録1年 南アルプスはいま」 <下>

保全活動 市町村任せ 求められる「横の連携」 広域的な取り組み欠く

「今後、ユネスコエコパークの推進を最重要課題としていく」。6日に静岡市内で開かれた南アルプス世界自然遺産登録推進協議会の総会。山梨、長野、静岡3県の10市町村長らが出席する中、事務局である静岡市の担当者が本年度の事業計画として提案し、承認された。南アルプスの世界自然遺産登録を事実上断念した瞬間だった。

環境省は今年2月、世界自然遺産としてユネスコが求める「普遍的重要性」が認められないなどとして、南アルプスを推薦候補から除外した。総会に先立ち、非公開で行われた会議では、環境省の担当者が、世界自然遺産の新たな候補地を選ぶための調査結果とともに、南アルプスを除外した経緯を説明した。

出席した早川町の辻一幸町長は「南アルプスの世界自然遺産への登録は断念する形になると感じた。(エコパークの推進を最重要課題とすることについて)特に反対意見もなく、委員は『仕方ない』と納得した様子だった」と明かす。南アルプス市の金丸一元市長も「世界遺産登録は現実的にみると厳しくなった。今後はエコパークの取り組みに力を入れていく」としている。

シカの食害深刻

櫛形山のアヤメ群落に防護ネットを設置する関係者。南アルプスは一体的な自然保護が必要とされている

櫛形山のアヤメ群落に防護ネットを設置する関係者。南アルプスは一体的な自然保護が必要とされている

 こうした状況を受け、南アルプスの保護やPR活動を続けるNPO法人「芦安ファンクラブ」の清水准一事務局長は「大事なのは世界自然遺産に登録されることではなく、自然を適正に利用して、後世に引き継ぐことだ」と強調する。

ただ、同協議会は、エコパークを活動の中心に据えたものの、環境保全に向けた具体的な対応を示すことはなかった。エコパーク登録から1年がたっても、南アルプスの保全の活動は構成する各市町村に任されていて、対応がまちまちなのが現状だ。

エコパークを担当する県内自治体の職員は「南アルプスに対する取り組みは登録前と何ら変わらず、各自治体がそれぞれで事業を行っている。共同で取り組む意識が芽生えないとエコパークの魅力を発信することはできない」と漏らす。

特に喫緊な対策が必要なのが、深刻化するシカの食害。県森林総合研究所の調査では、南アルプスでは落葉広葉樹林が狙われているケースが多く、被害も年々高山帯に広がっている。対策として、南アルプス市はアヤメの群落を守るため、防護ネットを櫛形山に設置しているほか、早川町は鳥獣被害対策実施隊を結成し、シカの駆除やパトロールをしている。環境省も夏に銃による駆除を実施しているが、「横の連携はない」(南アルプス市の担当者)という。

「芦安ファンクラブ」の塩沢久仙副会長は「局地的に対策を行っても、シカはすみよい場所に移るだけ。広域的な対応が必要」と指摘する。

「行政区分ない」

南アルプス世界自然遺産登録推進協議会で、エコパーク推進部会の事務局を務める同市ユネスコエコパーク推進担当の広瀬和弘さんは「食害に対しては単独事業の意識が強く、横断的に取り組もうという意識が低かった。今後は食害だけでなく、ライチョウ、観光など各部門についてどう取り組んでいくのか、10市町村が定期的に集まる場で論議していきたい」と話す。
南アルプスは、未来にわたってエコパークとして保全と活用を図っていくことが事実上決まった今、理念である「生態系の保全と持続可能な利活用の調和」を実現するために広域的な対応が求められている。「自然に行政区分はない」。エコパーク登録を主導してきた南アルプス市の広瀬さんは、こう痛感している。

2015年6月12日付 山梨日日新聞掲載

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