貴重な自然、継承課題南アルプス・八ケ岳国立国定公園指定50年

 南アルプス国立公園と八ケ岳中信高原国定公園が1日、指定から50周年を迎えた。公園内での開発に規制が加わった一方、周辺では道路網の整備が進み、登山者や観光客が増加。高山植物の盗掘も問題化した。最近は温暖化の影響などでシカの群れが植物を食い荒らす食害の範囲も広がっており、豊かな自然をどう継承していくかが課題だ。

 環境省によると、南アルプス国立公園内では従来、シカの生息域は標高1500メートル程度までとされた。しかし北部で1998年ごろから2600メートル以上の高山帯に出没するのが確認された。八ケ岳国定公園でも2000年ごろからシカが増え始め、麓の広範囲で群れの姿が見られる。

 【写真】南アルプスの北岳(中央右)

 シカは、狩猟者の高齢化に伴う減少などを背景に個体数が増え、地球温暖化の影響で活動範囲が高山帯へ広がったとみられている。県森林総合研究所の長池卓男主任研究員は「部分的な駆除ではなく、シカを増やさない根本的な対応が必要だ」と指摘する。

 環境省の国立公園利用者数調査によると、11年の南アルプスの年間利用者数は約51万人、八ケ岳は約1650万人。20年前に比べると八ケ岳はほぼ横ばいだが、登山ブームの影響もあって南アルプスは約15万人増えた。

 南アルプスの北岳では、高山帯の沢水が、登山者のし尿によるとみられる大腸菌に汚染されていることが分かり、バイオ方式の公衆トイレが整備された。絶滅が危惧されている希少高山植物のホテイアツモリソウなどの盗掘も相次いだ。

 南アルプスは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)のエコパークに登録される見通し。一方で、リニア中央新幹線の長大トンネルが山脈を貫通する計画が進んでいる。八ケ岳でも近くで中部横断自動車道長坂-長野・八千穂間が整備される予定。新たなトンネルや道路の整備が自然環境に与える影響は未知数だ。

 南アルプス市芦安山岳館の塩沢久仙館長は「利用者、地元、行政が自然保護とは何かを意識し、役割分担を果たすことが、未来に向けて美しい自然を守ることにつながる」と提言。八ケ岳観光協会の浦野岳孝理事は「古来から続く大自然を後世に残すため、食害対策も、利用促進も、関わる者が積極的に行動していかなければいけない」と語る。

 【写真】八ケ岳の赤岳(中央)=いずれも山日YBSヘリ「ニュースカイ」(NEWSKY)から

南アルプス国立公園

 山梨(南アルプス市、韮崎市、北杜市、早川町)、長野、静岡の3県にまたがり、総面積は3万5752ヘクタール。日本で標高が第2位の北岳(3193メートル)や3位の間ノ岳(3190メートル)など3千メートル級の山を有する。キタダケソウ、ライチョウなどの貴重な動植物の生息、生育地。

八ケ岳中信高原国定公園

 北杜市と長野県内15市町村に広がる。総面積は3万9857ヘクタールで、山梨県側は4088ヘクタール。八ケ岳で最高峰の赤岳(2899メートル)をはじめ、蓼科山、天狗岳、権現岳、横岳、編笠山など南北約25キロ、東西約15キロにわたる火山群を形成している。

(2014年6月1日付 山梨日日新聞)

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