2011.12.24 News / 自然文化 / 動物・鳥 /

甘利山 チョウ生態系に異変 環境研の北原研究員調査

コヒョウモンモドキ シカ食害、餌減り姿消すツマグロヒョウモン 南方種 温暖化で“進出”

 県のレッドデータブックで絶滅危惧種に分類されているチョウの「コヒョウモンモドキ」が、県内有数の生息地である韮崎市の甘利山から姿を消したことが、県環境科学研究所主幹研究員・理学博士の北原正彦さんの調査で分かった。唯一の餌であり、高原に自生するクガイソウがシカの食害で減っているのが要因。一方、温暖化の影響で、亜高山帯の甘利山には生息していなかった南方系種(暖地性)のツマグロヒョウモンが“進出”。ここ5年ほどで生態系は大きく変わっており、北原さんは「このままでは在来のチョウが県内から姿を消してしまう」と警鐘を鳴らしている。

 北原さんによると、コヒョウモンモドキは温帯から寒帯に生息している。標高1000~2000メートルほどの草原に自生するクガイソウのみを餌とし、幼虫の時は葉を食べ、成虫では花の蜜を吸う。

 北原さんはコヒョウモンモドキ発生のピークである7月下旬に甘利山を調査。しかし、生息していそうな場所を探しても見つからず、餌となるクガイソウもほとんど見当たらなかった。

 甘利山のクガイソウは草原となっている山頂部にしか自生しておらず、中腹の森林や低地に自生する植物はコヒョウモンモドキの餌にはならない。「シカによってクガイソウが食べられ、餌がなくなったことが、コヒョウモンモドキが姿を消した原因の可能性が高い」(北原さん)という。

 一方、在来種のコヒョウモンモドキに取って代わるように、増えているのが南方系のツマグロヒョウモン。かつては熱帯や亜熱帯に分布し、亜高山帯に属する甘利山ではこれまで見られなかったが、現在は最優占種となっている。

 ツマグロヒョウモンは1980年代までは近畿地方以西にしか生息していなかったが、温暖化とともに生息域は年々北上。98年以降は、県内でも甲府盆地周辺の平野部、低山帯でもよく見られるようになっている。コヒョウモンモドキのように餌となる草花が限定されないため、シカの食害の影響を受けなかったとみられる。

 県内のチョウの在来種の多くはコヒョウモンモドキのように寒地性の種。北原さんは「チョウの生態系に大きな変化が起きている。このままシカの食害や温暖化が進むと、県内に古来から生息するチョウはいなくなる。生物の多様性を守るためには早急な対策が必要だ」と訴えている。

 コヒョウモンモドキ【写真上】
  タテハチョウ科のチョウで、温帯から寒帯にかけて生息し、日本では中部地方に分布。県内では約30年前までは八ケ岳周辺など、さまざまな場所に多数生息していたが、現在、確認されているのは数カ所にとどまっている。

 ツマグロヒョウモン【写真下】  タテハチョウ科のチョウ。熱帯や亜熱帯に生息し、アフリカ北東部、インドなどに広く分布している。1990年代前半まで県内では「迷チョウ」「偶産チョウ」とされ、ほとんど見られなかったが、温暖化で生息域が拡大。現在、甲府盆地周辺でよく見られる最普通種の一つになっている。

 (2011年12月24日付 山梨日日新聞)

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