登山 安全に楽しく必要な「備え」は?

南アルプス登山の拠点・広河原行きのバス乗り場。南アルプスの北岳では今夏、山岳遭難が相次いでいます=南アルプス市芦安芦倉

 まだまだ夏山シーズンですが、山梨県内では山岳遭難が後を絶ちません。登山は日常生活では味わえない特別な体験ができますが、危険も伴います。登山が楽しい時間だと思えるのは、必要な体力や装備、知識を身につけて、頂上に登って無事に下山できてこそ。山に潜む危険を避けるためには、事前の「備え」が何より大切です。では、登山を安全に楽しむために、どんなことに気をつければよいのでしょうか。

体力、経験に合う計画を

 山に登る際に最も大切なことは、事前の準備をしっかりすることです。日本山岳ガイド協会(東京)などが発行する「安全登山ハンドブック」では、登山前にするべきこととして、(1)体の調子を整えること(2)計画を立てること(3)装備の点検(4)登山計画書の提出-の4項目を挙げています。
 登山で基本となるのは体力です。日々の運動習慣、当日までに体の調子を整えることが安全登山には欠かせません。体力に余裕がなければ、安全に歩くことができないばかりか、登山道で標識を見落としたり、天候が悪くなった時など、いざという場合に落ち着いて判断できなかったりするなどの危険を伴います。
 土地の高い所、低い所などが書かれた地形図を見て地形や道筋を確認し、無理のない計画を立てることも重要です。登りたい山が、どのくらい登るのが難しいかを確認し、自分の体力や技術で登ることができるかを判断した上で、無理なく登れる時間を設定します。1人で登るのは避けましょう。地形図を読み取る力は安全を確保をする上で必要であることはもちろん、登山の世界を広げてくれます。慣れてくれば、地図を見ただけで地形が浮き出て見えるようになるでしょう。
 装備は登山靴やリュックのほか、思いがけない事態に対応できる準備も必要です。例えば雨具(レインウエア)。「山の天気は変わりやすい」。こんな言葉を耳にしたことがあると思います。防寒具にもなるので、短い時間山に行く場合でも必ず持つようにしてください。ほかにも日没後に行動することになった場合のためのヘッドランプや地形図、コンパスも必ず持ってください。
 最後は登山計画書の提出。万が一、道に迷ったり、けがをしたりして自分の力で動けなくなった場合は、救助を求めなければなりません。登山計画書は必ず提出し、電話連絡ができるようにしておきましょう。遭難は、登山者としての知識や経験が十分ではない場合に起きるのが大半です。登山は自己責任が原則であることを覚えておいてください。
 このような事前の準備はなぜ大切なのでしょうか。山に潜む危険を回避するためです。遭難事故の原因として多いのは、転んだり滑り落ちたりすることで、多くは下山中に起きます。理由は、疲れや気の緩みなどで注意力が落ちているからです。足を置く場所をよく確認し、より慎重に歩くことが必要です。
 経験があまりない登山者による道迷いも時々見られます。道迷いは、分かれ道にある標識を見落としたり、天候が悪くて進むべき方向が分からなくなったりすることで起こります。特に低い山は高い山よりも地形が読みづらく、登山道を見失いやすい環境にあります。地形図を読み取り、地形を正確に理解することが大切です。
 山梨県警地域課によると、県内の今年1~7月までの山岳遭難の発生件数は106件で、遭難者の数は121人。前の年の同じ時期の70件、75人を大きく上回っています。
 同課は南アルプス・北岳(標高3193メートル)で遭難事故が多く起きていることを踏まえ、「山にはそれぞれレベルがある。自分の体力や経験に合った山を選び、しっかり準備をして入山してほしい」としています。
 山には登った人にしか分からない感動があります。ただ、それは安全が確保されてこそ。登山に危険はつきものです。ぜひ十分な「備え」をして登山を楽しんでください。

(山梨日日新聞 2025年9月4日掲載)

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