シカ食害 高山帯に拡大「姿消した植物」も 北岳を県山岳連盟調査 早急な対策訴え

 ニホンジカによる高山植物への食害が指摘されている南アルプス・北岳で、本来シカの生息域ではない高山帯などに被害が拡大していることが、県山岳連盟自然保護委員会(磯野澄也委員長)の調査で分かった。標高2320-2750メートルの登山道沿いは全域で食害が確認され、亜高山帯から高山帯に移行する標高2500メートル付近で最も被害が大きかった。同委員会は「シカの生息域が高山帯や亜高山帯にまで広がり、深刻な被害をもたらしている」とし、対策の必要性を訴えている。

 調査は8月25日に同委員会メンバー12人で行った。調査範囲は一般的に「草すべり」と呼ばれる標高2320メートルの白根御池から2750メートルまでの登山道、延長約1100メートル。踏圧を加えないように目視で登山道の両側約五メートルの範囲に食害があるかをチェックし、その度合いや被害植物の種類を調べた。

2500メートル付近で深刻

 調査区域を標高別に3ゾーンで見ると、標高2500メートル付近の高山帯に移行するダケカンバ疎林での被害が最も大きく、満遍なく食害の跡を確認した。続いて、被害が目立ったのが標高2700メートル付近。被害が軽微だったのが2400メートル付近で、獣道に沿った形で食害痕が見られたという。

 調査範囲で食害に遭っていた植物は、シシウドやシナノキンバイなど17種に及んだ。ある場所で被害に遭っていない植物が別の場所では食べられているなど、シカの嗜好(しこう)の傾向は明確には分からなかった。

 ただ、食害が確認された高山植物の一つ、2500メートル以上の草すべり上部に数多く自生するシナノキンバイは、「(調査時に)咲いているべき場所で、ほとんど花を見ることができなかった」(同委員会)という。

壊滅的ダメージ

 同委員会によると、被害は2、3年前から目立つようになった。今回の調査については「概略をつかんだだけで正確な被害の把握には不十分」としながらも、被害が拡大傾向にあることに警鐘を鳴らしている。

 これまで食害についての詳細調査は、南アルプスの山梨県側では行われていず、磯野委員長は「現状の食害が数年続けば、お花畑の裸地化など壊滅的なダメージを受ける恐れがある」として、早急な対策の必要性を訴える。

 山梨、静岡、長野三県の関係10市町村で構成する南アルプス世界自然遺産登録推進協議会は11月、環境省に高山植物の食害対策を要請した。一方、県みどり自然課は「調査の必要がある」との認識を示しているが、具体化はしていない。磯野委員長は「行政側がとりまとめ役となり、官民で協力しての取り組みが求められている」と話している。

【写真上】草すべり上部の群落。シカの食害によってシナノキンバイの花はまばらにしか見られない(2006年7月7日撮影)

【写真下】草すべり上部を埋め尽くして咲くシナノキンバイの群落(1995年7月15日撮影、いずれも県山岳連盟提供)=南アルプス・北岳

(2007年12月12日付 山梨日日新聞)

月別
年別