親子2代、自然守り続けて

広河原山荘管理人 塩沢顕慈さん(南ア市)

 「自分で使ったものを自分で処分するのは、日々の暮らしで当たり前のこと。登山に来て出たごみも同じ。山にいても、生活の延長線上だと考えて持ち帰ってほしい」。北岳など南アルプス登山の拠点である広河原山荘の管理人・塩沢顕慈さん(39)は、登山者に必要な意識についてそう話す。

啓発が必要

「植物を根こそぎ採ればなくなる、という当たり前のことを理解してほしい」と話す塩沢顕慈さん=南アルプス・広河原山荘横の登山道入り口

「植物を根こそぎ採ればなくなる、という当たり前のことを理解してほしい」と話す塩沢顕慈さん=南アルプス・広河原山荘横の登山道入り口

 父は同山荘の初代管理人で2017年に亡くなった「南アルプス市芦安山岳館」の初代館長、故塩沢久仙さん(享年75歳)。多くの時間を山で過ごした久仙さんに連れられ、幼い頃から同山荘を何度も訪れ、山で遊んだり登山したりするのは顕慈さんにとって当たり前の日常だった。

 久仙さんは南アルプスの山岳文化の発信や遭難者の救助活動のほか、北岳の固有種・キタダケソウなど高山植物などの保護に尽力。高山植物やチョウなどの希少生物は現在、県条例などさまざまな法令で採取・譲渡が禁止されているが、なお盗掘の恐れがあるため、顕慈さんも所属するNPO法人芦安ファンクラブがパトロールをするなど警戒を続けている。

 貴重な自然が残る南アルプスの環境を守る思いは、親子2代で変わらない。希少動植物の採取などが禁止されていても「ただ駄目というだけでなく、なぜ駄目か、山に入る前に理解してもらうことが大切では」と事前の啓発活動の必要性を強調する。

 「例えば高山植物は持ち帰っても標高の低い場所では育たない。チョウを捕まえればそれだけ繁殖数が減る。持ち帰ることは何の発展性もなく、そこにあるものを壊すだけ。その無意味さを知ってほしい」

 人それぞれ異なる山の楽しみ方。散策する人、山頂を目指す人、写真を撮る人、動植物を観賞する人…。名刺に「山飯研究家」と「肩書」を加えている顕慈さんは、山にあるものをおいしく食べたり、振る舞ったりすることが「山の楽しみ」だという。

楽しみ共存

 採取した山の植物や、狩猟で捕った動物を調理して食べることは、希少な動植物を盗掘することとは異なる。フキノトウやワラビなどの山菜は次の時季にも生えるように一部だけを採り、動物は増加により食害などが問題となっているシカやイノシシなどが対象だ。

 「植物を根こそぎ採ればなくなるし、数少ない生き物を捕れば生態系が崩れる。動植物のことを理解すれば、自然を楽しみながら共存していける。アウトドアが流行しているが、必要最低限のことは知っていてほしいし、分からないことがあったら何でも聞いてほしい」

 しおざわ・けんじさん 広河原山荘の2代目管理人。日本山岳ガイド協会認定ガイド、登山ガイドステージ2。南アルプス市上今井。

【メモ】山梨県内の国立・国定公園
 山梨県内には、いずれも隣接県にまたがる四つの国立・国定公園がある。環境省の調査では、2016年に南アルプス国立公園を登山や観光目的で訪れた人は307万人、秩父多摩甲斐国立公園は1381万人、富士箱根伊豆国立公園は1億2784万人、八ケ岳中信高原国定公園は1759万人。近年の登山ブームを背景に登山者は増える傾向にあり、ごみの持ち帰りや高山植物の盗掘防止などに向けた啓発や自然保護活動が課題となっている。

 (山梨日日新聞 2019年8月10日掲載)

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