2022.8.10 News / 道路情報 /

南ア林道崩落3年 通行止め続く

シカ急増、生態系に異変 希少生物絶滅の恐れ

 2019年の台風19号により、山梨県営林道南アルプス線(南アルプス市)で土砂崩落が起きて以降、周辺でシカの出没数が急増している。環境省が設置している自動撮影カメラの記録では、21年の出没数は19年の約5倍に増えていることが判明。崩落で車が通れなくなったことによる管理捕獲の休止や交通量の減少が要因として考えられるという。専門家は植物への食害増加や希少生物の絶滅につながることも懸念していて、「対策を急がなければ生態系に大きな影響が出かねない」と警鐘を鳴らしている。

 19年10月12日に県内に最接近した台風19号により、南アルプス市と長野県を結ぶ林道南アルプス線は、広河原-北沢峠間(約10キロ)の中間にある三好沢付近で土砂崩落が発生。3年近くが経過した今も同区間で通行止めが続き、野呂川に沿って走る仙丈治山運搬路(林野庁管理)も車が通れない状態となっている。

 通行止めになって以降、異変が生じたのが周辺のシカの頭数だ。環境省が仙丈治山運搬路に設置しているカメラでは、通行止め前の19年10月上旬は30頭を確認。20年は多い月で35頭だったが、21年になると5月に147頭、10月に125頭となった。

 環境省は高山帯へのシカの侵入を防ぐため、11年から南アルプス線広河原-北沢峠間で、17年からは仙丈治山運搬路で毎年管理捕獲を実施してきた。しかし車が通れなくなったため、春と秋に20日ずつ実施してきた捕獲は休止が続いている。環境省南アルプス自然保護官事務所の雨宮俊自然保護官は、「管理捕獲の休止や車の通行量が減ってシカの出没が増えた可能性がある」とみている。

 絶滅危惧種ミヤマシロチョウへの影響も懸念されている。南アルプス線周辺は県内で唯一の生息地。現地で個体数調査をしている元県富士山科学研究所副所長・特別研究員の北原正彦さん(66)によると、19年以前は1日約30匹だった確認数が20年は1日2匹、21年は1日3匹に落ち込んだ。周辺ではミヤマシロチョウが好むクガイソウなどの植物がシカに食べられて激減していて、北原さんは「県内のミヤマシロチョウが絶滅しかねない」と危惧する。

 県森林総合研究所の長池卓男研究管理幹は、今後シカによる木の樹皮はぎ被害の増加を懸念。「若く細い木は樹皮がはがされれば枯れ、次世代の木が育たず森林が衰退する可能性がある」と指摘する。

 県は林道の一部区間の来年度中の復旧を目指しているが、仙丈治山運搬路などは復旧の見通しが立っていない。雨宮自然保護官は「復旧した区間だけでも関係機関と連携し、管理捕獲などシカ対策を再開したい」と話し、県にはシカ捕獲に活用できる国の交付金を活用した林道付近での管理捕獲を呼び掛けている。

(山梨日日新聞 2022年8月10日掲載)

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