シカの食害 南アルプスの高山植物にも 標高3000メートル付近まで活動裸地化の危機 県、対策に頭悩ます

 山梨県内の各地でニホンジカの食害が深刻化する中、南アルプスの高山植物にも被害が出ていることが山小屋関係者の話などで分かった。シカの生息域は標高1500メートル程度までといわれるが、最近は3000メートル近くで行動が確認されている。個体数の増加に加え、暖冬などの影響で生息域が縦軸に伸びているとみられ、南アルプスの長野、静岡県側では食害で高山植物の花畑が失われつつあるケースも確認されている。関係者からは「早期に対策を講じなければ、南アルプスの植生が失われてしまう」との指摘が出ている。

 山小屋などの関係者によると、南アルプスで被害が出ている高山植物はキンポウゲ科のハクサンイチゲやシナノキンバイ、セリ科のシシウドなどを中心に多種類にわたる。シカが雪解け後に北岳の標高2000-2500メートル付近にまで活動範囲を拡大し、高山植物を食べ荒らすようになっているという。

 シカの群れが標高1500メートル以上で目立つようになってきたのはここ5年ほど。県は2004年度に実施した自然環境基礎調査で、標高2000メートル付近での生息を確認している。

 標高2000メートル付近までは、シカに樹皮を食べられた広葉樹も増えていて、肩の小屋管理人の森本茂さん(59)は「十年ぐらい前は広河原(標高約1500メートル)周辺でシカの群れを見掛けることはほとんどなかったが、最近は20-30頭が群れをなしているのを頻繁に見る」と話す。

 静岡県との県境、標高約2800メートルに位置する農鳥小屋の管理人深沢糾さん(60)も「小屋のすぐ近くでも高山植物が食べられている。草が食べられ、踏み荒らされれば、砂れきがむき出しになり、植物が育たない土壌になってしまう」と不安げに語る。

 南アルプスの高山植物の生態を研究している静岡大理学部の増沢武弘教授によると、長野、静岡県側では、標高2000-2500メートル付近でシカの食害が原因で裸地化が進む高山植物の花畑が複数個所あり、山梨県側よりも深刻な状況だという。

 温暖化によるシカの活動範囲の拡大や、ハンターの減少による個体数の増加が原因とみられ、増沢教授は「群れに菜食された花畑は芝刈りをしたような状態になり、繰り返されると裸地化してしまう。放置していれば近いうちに山梨県側でも同様の事態が考えられる」と説明する。

 県は、シカの食害対策として「管理捕獲」を行うなど個体数を調整する対策を取っているが、効果は未知数。県みどり自然課は「即効的な対策がないのが現状」と頭を悩ませている。

 南アルプス市芦安山岳館の塩沢久仙館長は「関係機関が横断的に協力しながら役割分担し、具体的な対策を講じていかなければならない」と指摘。増沢教授も「このままでは南アルプスの植生が失われてしまう恐れがあり、早い段階で手を打つ必要がある」と話している。

(2007年5月17日付 山梨日日新聞)

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