2018.10.05 News / 芦安山岳館 /

【特集】絶滅危惧「ライチョウ」

4月の残雪期に見た白いオスのライチョウ(北アルプス)

4月の残雪期に見た白いオスのライチョウ(北アルプス)

 ライチョウのひなを外敵から守り、繁殖に成功-。最近報じられたこのニュースを覚えていますか? 人間を怖がらず、日本ではごく限られた高い山に暮らしている絶滅危惧種。今回はライチョウを紹介します。

◆高山に生息

ライチョウの生息図

 ライチョウは北半球の寒い地域に広く分布し、約2万年前の氷河期に大陸から日本列島に南下してきたといわれています。1955(昭和30)年には、国の特別天然記念物に指定されました。世界では北半球の寒い地域を中心に生息しています。日本にはニホンライチョウ(以下ライチョウ)という亜種が生息しています。

 キジの仲間でとてもおとなしく、平安時代には「らいのとり」と呼ばれました。江戸時代には「らいちょう」と呼ばれるようになったといわれています。

 暮らしているのは、限られた高山の標高3千メートル付近。山梨県では、白根三山(北岳、間ノ岳、農鳥岳)周辺や仙丈ケ岳、甲斐駒ケ岳などに生息しています。静岡県のイザルガ岳に住むライチョウが世界で一番南に暮らしているため、この山がある南アルプスは生息地の南限になります。かつては蓼科山や八ケ岳などにも生息していましたが、絶滅してしまったそうです。

◆人間恐れない

ハイマツの中につくられた巣と卵(南アルプス)

ハイマツの中につくられた巣と卵(南アルプス)

  スズメなどの野鳥は人間の姿を見るとすぐ逃げてしまいますが、ライチョウは人間を恐れません。なぜでしょうか。

 かつての日本人は、高い山には神様がいると考え、その神聖な場所を敬う気持ちがありました。登るのは厳しい修行をする修験者など限られた人たちで、ライチョウは神の鳥とされたのでしょう。明治時代に一時的に乱獲されたようですが、政府は狩猟法で「保護鳥」に指定して捕獲を禁止しました。このためライチョウは長い間、人間に襲われる機会がほとんどなく、「人間を恐れる」ことを学習しなかったと考えられています。

ライチョウのひな(南アルプス)

ライチョウのひな(南アルプス)

  冬は真っ白な羽毛。雪解けとともにオスは黒褐色、メスは黄褐色になります。繁殖期を迎えたオスは目の上の赤いヒダが目立つようになり、繁殖を終えるとオスもメスも茶褐色になります。外敵から身を守るために羽根の色を年に3回も変えるのです。

 ライチョウの天敵は、イヌワシやクマタカといった猛禽類、オコジョなどの哺乳類が挙げられます。天気の良い日は猛禽類に狙われやすいため高山帯に生えるハイマツの中に隠れていることが多く、霧がかかったり天気が悪かったりする時に現れてエサを食べます。

 ライチョウの数は今、とても少なくなっています。1980年代には国内に約3千羽いると推定されていましたが、現在は約1700羽と報告されています。特に南アルプス北岳周辺の数は激減していて、81年には63組のつがいがいたのに、2004年には18組に減り、14年には8組しかいなくなってしまいました。なぜ少なくなったのでしょうか。

◆守るためには

南アルプスのライチョウのつがい(左奥がオス、手前がメス)

南アルプスのライチョウのつがい(左奥がオス、手前がメス)

 それは地球温暖化による生態系の変化が原因と考えられています。雪があまり降らなくなり、たくさんの野生動物が高い山まで移動できるようになったため、今まで高い山に生息しなかったニホンジカやニホンザルが高山植物を食べ、チョウゲンボウやテン、キツネがライチョウを狙って来るようになりました。

 日本で野生が絶滅したトキやコウノトリのようにしないため、私たちに何ができるでしょうか。温暖化を防ぐため、普段の暮らし方を見つめ直すことが必要でしょう。それはライチョウからのメッセージかもしれません。

南アルプスの北岳でライチョウのヒナと母親を保護する取り組み(環境省南アルプス自然保護官事務所提供)

南アルプスの北岳でライチョウのヒナと母親を保護する取り組み(環境省南アルプス自然保護官事務所提供)

 環境省は「ライチョウ保護増殖事業計画」を作り、生息地でライチョウとそのヒナを守る取り組みを進め、動物園では卵をかえらせ、保護しています。南アルプスユネスコエコパークのシンボルであるライチョウのメッセージを受け取り、みんなで見守っていきたいですね。

(南アルプス市役所ユネスコエコパーク推進室長 広瀬和弘)

 2018年10月2日付 山梨日日新聞掲載・子どもウイークリー 『知りたい好奇心』から

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