2010.6.29 News / 芦安山岳館 /

【連載】南アルプス 自然と人[1]残雪の中、観察会

残雪の中、観察会 心和ますキタダケソウ

国内第2の高峰・北岳など3000メートル級の山々が連なり、愛らしい高山植物などが多くの人たちを魅了する南アルプス。登山する団体などに同行し、麗峰の今や、かかわる人たちの姿を取材し、報告する。

地図

「今年は残雪が特に多いから注意してほしい」。そんな言葉に身が引き締まり迎えた南アルプス開山の26日。南アルプスの保護などに取り組むNPO法人「芦安ファンクラブ」のキタダケソウ観察会に同行し、北岳を目指した。

参加者は約40人。26日午後1時前、雨の中、広河原をたった。この日は順調に進み、夕方近く白根御池小屋に到着。小屋の中は、多くの入山者でにぎわい、冷えた体をストーブで温め合いながら談笑する姿が見られた。


翌日は午前5時すぎ、小屋を出発。多い所で10メートル近い残雪がある大樺沢を避け、草すべりコースを登ると稜線(りょうせん)目前で、雪に覆われた急斜面が目に飛び込んできた。

残雪で覆われた登山道。急傾斜の雪上をアイゼンやピッケルを使って慎重に足を進める登山者

残雪で覆われた登山道。急傾斜の雪上をアイゼンやピッケルを使って慎重に足を進める登山者

「アイゼンをつけて」。雪に不安を抱きながらも、アイゼンを付けてピッケルを取り出し、雪山装備に。一歩一歩雪を踏みしめ進んだ。それでも斜面に一瞬、足を滑らせ、体勢を崩す登山者の姿に、山の過酷さを感じる。

稜線に出ると、今度は北岳特有の西から突き上げる猛烈な風にさらされた。体感温度は氷点下。山頂へ向かう途中は、みぞれ混じりの雨と強風に、体温やスタミナを奪われていくのが分かる。

オヤマノエンドウ、ミヤマキンバイ…。登山道沿いに色とりどりの美しい花が姿を現す南アルプス。この時期は、山頂南東斜面に咲くキタダケソウの群生地は多くの人を魅了する。しかし、今回は残雪の多さと厳しい天候が行く手を阻む。途中、観察会参加者が1人また1人と群生地へ向かうのを断念した。

「よく咲いたね」。風雨の中、たどりついた標高3000メートルの群生地。かれんな姿で迎えてくれたキタダケソウに歓声が上がった。

春先の低温や6月に入っての降雪などで、いまだに多くの雪が残る今年の南アルプス。「事前に情報収集するだけでなく天候や体調を踏まえた現場判断も重要。安全で楽しい登山をしてもらい、南アルプスの魅力に触れてほしい」。そう話す同クラブの清水准一事務局長。厚い雪で覆われた山を見つめ、今シーズン事故がないことを願っていた。

2010年6月29日付 山梨日日新聞掲載

 

 

 

 

 

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