南アルプス芦安山岳館/イベント・お知らせ


 ■【連載】南アルプス 自然と人[8]
山頂に並ぶ100体超す地蔵 子宝信仰脈々と続く

地蔵ケ岳山頂付近の賽の河原に立ち並ぶ子授け地蔵
地蔵ケ岳山頂付近の賽の河原に立ち並ぶ子授け地蔵
「山の姿は昔から変わらない」と語る山寺仁太郎さん=韮崎市内
「山の姿は昔から変わらない」と語る山寺仁太郎さん=韮崎市内
 南アルプス・鳳凰三山の地蔵ケ岳(標高2764メートル)。山頂にそびえるオベリスク(岩塔)の下に広がる「賽(さい)の河原」と呼ばれる場所に、地蔵が並んでいる。真新しいものから、黒ずんだものまで、新旧さまざまなその数は、優に100体を超える。

 「子授け地蔵」。山頂付近に置かれた地蔵を1体持ち帰ると子どもを授かるといい、子どもが生まれると、お礼に2体の地蔵を山に返すのだという。重いものでは1体約20キロになる地蔵。子宝を求める夫婦は、重い地蔵を背負って山道を歩く。多くの地蔵が並ぶ光景は人々の信仰の表れだ。

 富士山信仰は有名だが、南アルプスの山々も例外ではない。南アルプス最北端の甲斐駒ケ岳(標高2967メートル)では、古くから「甲斐駒講」と呼ばれる信仰登山が盛んだった。

 「南アルプスの神秘的な姿、そして修行にもなる厳しい急峻(きゅうしゅん)な山岳の登山が人々に強い信仰心を根付かせ、現在でも書物や登山道、山頂に残る祠(ほこら)や石碑、地蔵などによってその心を伝えています」。南アルプス世界自然遺産登録県連絡協議会が刊行した「南アルプス概論 山梨県版」は、こう記している。

 子授け地蔵の効果に、もちろん科学的根拠はない。しかし「地蔵を持ち帰り、子どもを授かった夫婦をこの目で見てきた。新たに置かれた地蔵が尊い命の誕生を物語っている」と話すのは韮崎市の山寺仁太郎さん(91)。同市の山岳会・白鳳会の名誉顧問を務め、日本山岳会員や山梨郷土研究会員として、山の歴史を見続けてきた重鎮は、「変わり続ける世の中で、さほど変わっていないとすれば、それは山だろう。何より昔からの光景が今も残っていることがうれしいじゃないか」と目を細めた。
2010年7月23日付 山梨日日新聞掲載